レールバス・気動車について

 

ミャンマーの鉄道車両の中で着々と勢力を拡大している気動車について、導入の経緯、種類や特徴を整理する。

 

1.ミャンマーにおける気動車の歴史

ミャンマーにおける気動車(エンジンで自走することができる旅客輸送に用いられる車両)の導入の歴史について紹介する。

①独立後の復興・輸送改善の一環として(1950~70年代)

IMGP5940

 各種資料で確認することができるミャンマーにおける初の気動車は、1959年のヤンゴン環状線の完成の際に運行を開始した旧西ドイツ・タルボット社製(画像上)と、同時期に幹線の急行列車に投入されたハンガリー・ガンツ社製の気動車がである。
2車種の気動車は自走できなくなってしまったからか、1970年代後半以降客車に改造されてしまった。前者については近年までLBTX900形客車として運行されており、ヤンゴン地区の「顔」であった。後者についても一部の車両が後年客車に改造されたが、こちらは完全な形では現存しないとの事。


②新線建設と短距離列車の増発(1980年代後半~1990年代)

1980年代後半頃から地方線区でのより効率的な運行のために、トラックやバスを改造したレールバスが製作された。
初期のレールバスは既存の路線バスの車体を流用していた。既に国内工場が操業しており部品調達が容易であった日野製BMや、開発援助によって寄贈されたとされるフランス製RP100やSC10などをベースにしたものが存在した。
またビルマ国内で製造されていた日野THトラックも種車となり、こちらはナムツ鉱山鉄道でも同様な車両が運行されていた。
これらのレールバスは2両程度の付随車を連結して運行された。編成としての気動車というよりも、機関車としての位置づけであったようだ。
レールバスの形式はLRBEで、Loco Rail Bus Engineの頭文字を取ったものであった。(バス改造の車両の場合、形式名称はこの限りではなかった模様)

LRBE25
1990年代に入り、国産レールバスの車両数は急増する。車体を完全に新製し、エンジンと客室が同一空間に収められた構造のものが多数製作されるようになる(画像上)。
パズンダウン、インセイン、ヤタウンの各工場で改造工事は実施され、工場ごとに特徴的なデザインであった。
同時期に派生型も多く製作された。より機関車としての性能を強化したD1Bや、レールバスのタイヤ駆動システムを利用した小型事業用車などである。
こうして製作されたレールバスは、この時期次々と開業した新線や、幹線の区間列車などへ投入されていった。
国産レールバスの最終進化系が、DMU(Diesel Multiple Unit)である。同一デザインの付随車や台車駆動、そして曲面ガラスの使用など、その姿は気動車により近くなっていた。

③日本製中古気動車の導入、投入列車の拡大(2000~2010年代)

RBEP5032

2003年の名鉄キハ20形の中古導入を皮切りに、MRは日本製中古気動車RBEの導入を進めていく。当初はレールバスと同様に、RBEを機関車として数両の客車を牽引させる運行方式が取られたが、車両の故障を招いたため2両程度での運行に改められていった。キハ183系やキハ181系の導入以降は、同一系列による編成としての運行が行われるようになった。
2010年代前半までにミャンマーへ輸出されたディーゼルカーはヤンゴン地区での運行の他、これまでのMR製レールバスのように最初から新線へ投入される事例もあった。
メーターゲージのMRでは車両限界が日本のものより小さく、中古車両が屋上に装備していた冷房機器や通風機は基本的に撤去されていた。キハ52形や58形、のと鉄道NT100形などのように、車体を切り詰める大掛かりな改造を施して入線しているグループもある。2009年導入の三陸鉄道36形リクライニングシート車より冷房装置周辺の天井高を下げる改造によって冷房の温存が試みられ、続くJR北海道キハ183系やJR西日本キハ181系などで営業列車での冷房装置が稼働した。2014~16年にかけて「エアコン列車」がヤンゴン地区並びに一部特別列車で運行された(画像上)。しかし車両側の問題や効果が薄かったこともあってか2016年度に入って冷房装置の使用は取りやめとなっている。
2015年度にはJR東日本やJR東海から多数の気動車が導入され、以降各地のレールバス列車(カーヤター)や一部の客車列車がRBE列車に変更となってきている。

十数年に渡り導入が続いた日本製中古車両、2010年代中期を境に導入手法が変化したという点は特筆すべきである。
中古鉄道車両は元の運行事業者で廃車後、商社を介して輸出されていた。そのため、各車両の元の事業者は、MRへの輸出に一切関与していなかった。
しかしながら、2015年以降は公式にミャンマーへの輸出に関与する場合が多くなっている。JR東海キハ40系列は事業者がMRへの譲渡に関するプレスリリースを公表し、JR東日本キハ40系列は政府開発援助の一環で輸出された。

④電気式気動車の導入へ(2020年代)

 

今後は国際協力機構によるヤンゴン環状線やヤンゴン・マンダレー線の改良プロジェクトの一環で、電気式気動車DEMUの導入が予定されている。
ヤンゴン・マンダレー線のフェーズⅠ工事では新潟トランシス製(画像上)、フェーズⅡ工事とヤンゴン環状線にはスペインCAF製の車両が導入される。
前者はすでにミャンマーに到着している編成があり、試運転が進められている。

 

2.RBEとレールバス

2022年現在、番号のみで判断する限り、これまでLRBEは78両、D1Bは4両、DMUは6編成、RBEは約280両が導入された。
ただし、LRBEに関しては状態に応じて車体を交換ないし新造しているようで、実際の製作数は延べ100両を超えると考えられる。
またいずれのタイプにも除籍になったものや、何年も部品取の状態で荒廃しているものもあり、MR側の公式な在籍数はこれよりも少ないものと考えられる。

LRBE61 D1B303
DMU305 RBE2576
左上:LRBE(一例、様々な車体のものが存在する)
右上:D1B
左下:DMU
右下:RBE (一例)

2010年代まで残ったLRBEはMR工場で車体を新造したグループで、主に地方線区や幹線の短距離列車で運行されていた。
D1Bは1992~93年に4両がヤタウン工場で製造された。日野製エンジンを搭載し、タルボット製気動車の動台車を流用している。ダウェー、パコック、カレーミョ地区といった地方新線の最前線に投入された。
DMUは2001~2006年にヤタウン工場とインセイン工場で6編成が製造された気動車で、LRBEより大型な車体が特徴。これまでのレールバスとは異なり、類似のデザインの付随車を数両連結して運行された。当初はヤンゴン地区やマンダレーといった都市近郊路線に投入された。2010年代後半までザガイン管区の線区で複数両が運行されていた。


RBE3056
ヤンゴン地区で運行されるRBE列車は4ないし5両編成のものが多い。

RBE2543&RBE5045
新線に投入されたRBEの一例。ピョーブエ・新ナッマウ間にて交換する上下列車。

RBE3046
優等列車に投入された事例。マンダレー~コーリンの急行列車で運行されていた車両。

RBE2502

単行運転ができるメリットを活かして、一部のRBEはVIP仕様に改装されている。大臣クラスの政治家や国鉄幹部をはじめとする人物が各地を視察する際に用いられる。
車両によっては寝台や厨房を備えているものもある。

<参考資料・サイト>
・鉄道ファン1966年1月号
・世界の鉄道'77
・Rail Magazine 2000年3月号
・鉄道ピクトリアル2017年8月号
・ミャンマー国鉄公式サイト
RBE


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