客車概要
ミャンマー国鉄の運行する旅客列車の多くは客車列車である。
約1400両の客車が在籍しており、それらは機関車による牽引、ディーゼルカー(RBE)牽引、レールバス(カーヤターあるいはLRBEなど)牽引に大別する事ができる。
ここでは1.階級・用途別分類と2.形式記号の意味について解説する。
1.階級・用途別分類
客車の階級は、基本的に三段階(Upper,First/Second, Ordinary)に分けられている。
ここでは主要な車両を紹介する。
(1)アッパークラス Upper Class
a:アッパークラス寝台車 Upper Class Sleeper
現在運行されている寝台車はアッパークラスの扱いである。通常営業車では最高級の客室設備であると言ってよいだろう。貫通路のない完全個室車(画像左)と、日本の一般的な個室寝台車と同じ仕様の、車内が通路で結ばれている車両(画像右)に分類される。
画像下の様に雨樋が車体上部に設置されている古いタイプの車両も多く見受けられ、車両の更新が他のクラスに比べて遅れている印象がやや強かった。2016年度に国産車が10両新製され、徐々に代替が進んでいくものと思われる。
b:アッパークラス座席車 Upper Class
座席車両では最上級の階級となる。座席はリクライニングシートである場合が殆どである。ただし、リクライニング機能が壊れている、(あるいは最大で固定されている?)車両も多い。近年製造されたり、更新されたものはより近代的で表面の真新しい座席が装備されている事もある。
座席配列は2+1列または2+2列で、後者には方向転換機能がなく、対面で固定されているものも存在する。
窓間隔が狭い点がオーディナリークラスの客車との外見上の識別ポイントとなる。
(2)ファーストクラス・セカンドクラス First Class/Second Class
連結される列車が限られるため、見かける機会は少ない。座席の仕様はオーディナリークラスのクロスシートの座面にクッションが付いたものとなっている。列車によっては日本の中古気動車RBEがこのクラスに分類される事もある。
ヤンゴン~バガンの61UP/62DNのみ、セカンドクラスの名称で運行される。
近年キハ11のボックスシートへの交換が進んでいる。
(3)オーディナリークラス Ordinary Class
a :フルサイズ客車
ミャンマーの客車列車で最も一般的な階級である。座席は基本的に木材やプラスチックを素材としている。
上のクリーム色の客車は、主に座席指定のある長距離の列車で用いられる塗装である。
対する青色の客車は、座席指定のない混合列車に連結されていることも多い。
b:ローカル車 Local
形式の頭文字がLの車両は、主にヤンゴン近郊路線や混合列車で運行されるロングシート車である。座席指定のない列車に連結される。
車両の種類は多く、新製車(画像上)や格下げ車両、気動車改造車(画像下)などが存在する。
いずれも乗降口の扉が撤去、あるいは元から取り付けられていないのが特徴だ。
これらの車両の扱いはオーディナリークラスと基本的に同じである。
ヤンゴン圏は他地域とは別の運賃体系(2016年以降、距離に応じた二段階)が取られている。
2015年までの一時期、ロングシート車と編成中間に連結されているクロスシート車(先述したオーディナリークラス車と同型)・新製ロングシート車とでは運賃(当時は一律)が異なっていた。
c:客貨車・小型客車
貨車を改造した客車である。有蓋貨車の荷扉を撤去したタイプと、サトウキビ無蓋車に屋根と窓を設置したタイプが存在する。車内は中央にベンチが設置されているものと、ボックスシートタイプ(サトウキビ車改造車のみ)の二種類がある。
全車乗降口に扉が無く、車内には便所が設置されている。室内灯も一応設置されているが、夜間であっても使用しない事が多い(車掌が懐中電灯を適宜照らす)。
また山岳地帯では貨車の車体サイズで製作された小型客車が運行される。フルサイズの客車を一回り小さくした構造となっている。
d:付随車
主にレールバス(LRBE型など)に牽引される客車。一般的な客車の半分くらいの全長である。
製造時期によって乗降口の仕様やデッキの有無など様々な違いがある。型式はLRBTであり、レールバスの付随車という扱いのほうが適切か。
バスを改造したものや、トロッコの様に二軸貨車に簡易的な屋根を取り付けたような車両もかつては存在した。
本来気動車RBEに牽引されるために製造されたRBT800形もオーディナリークラスである。上の画像は急行列車に使用される名目で製造されたタイプ。
(4)荷物車
列車の最後部に連結される。車内は荷物室と乗務員室に区切られている。緩急車として用いられる。
オーディナリークラスとの合造車も存在する。
列車によっては荷物車の代わりに有蓋緩急貨車を連結する事もある。
(5)郵便・オーディナリークラス合造車
一部の列車に連結されている。ミャンマーでは郵便物の鉄道輸送が現在も一部列車で行われている。
(6)食堂車 Restaurant
一部の急行列車には食堂車も連結されている。
車内の約三分の一程度のスペースが厨房となっている。
(7)貸切車 Tourist
主要な駅構内では、美しく整備された客車が留置されている光景を見かけることもある。
これらの客車は貸切車として運用されている。
シャワーやエアコンなど、他にはない豪華な装備である。
(8)事業用車 Department
客車タイプの事業用車も用途に合わせて多様な形式が存在する。通常は一般人の立ち入ることのできない機関区構内や、主要駅の側線で留置される。
ごくまれに営業列車の編成に組み込まれるため、目にする機会は少ない。
茶色一色に塗装された客車は、鉄道職員が移動や休憩に利用するための車両である。
長時間の移動や工事現場の最寄駅等での詰所としての使用も想定しているようで、車内にはベッドや簡単な台所・シャワー等が設置されているとの事。
一般客が立ち入らないよう、常に施錠され、窓も金網を取り付けている。
幹部クラスの視察にも使用される青く短い車体の客車はインスペクションカーと呼ばれる。
機関区構内では、現在でも木造の二軸救援車が鎮座している地区も多い。
赤い塗装の客車は囚人輸送車である。運用時には厳重な警備態勢が敷かれる。
2.形式記号の分類
ミャンマーの客車は四桁ないし五桁の車番の他、アルファベットの形式記号によって分類・管理されている。
今回は元来機関車牽引を目的として製造された旅客車の形式記号について取り上げる(貨車改造の客車は別の法則がある)。
なお、本記事は鉄道職員の方々からの聞き取り、各種文献・資料、また実車の使用方法等を基にまとめたものであり、ミャンマー国鉄の公式見解と必ずしも一致するものではないことをお断りする。
①~⑦が形式記号、以下の数字が車番である。
形式記号は七つの項目に大別できる。各項目に含まれる記号は以下の通り。
①
L:ロングシートのオーディナリークラス車(Local)
②
B:ボギー車(Bogie)
③
B:車掌室付(Break)
④
DU:アッパークラス座席車(Day Upper)
DF:ファーストクラス座席車(Day First)※セカンドクラス車はDS(Day Second)となる。
DT:オーディナリークラス座席車(Day Third)
NU:アッパークラス寝台車(Night Upper)
NC:アッパークラス個室寝台車(Night Compartment)
GT:オーディナリークラス格下げ車(Goods Third)
PT:プッシュプル対応車(10850番台が該当、設備は撤去済み、Push-pull Third)
HM:半室郵便車(Half Mail)
QM:四分の一が郵便室の車両(Quarter Mail)
R:食堂車(Restaurant)
I:インスペクションカー・業務用車(Inspection)
KC:調理室付の事業用車(Kitchen
Short Equipped)
RT:事業用車・作業員の控車(Rest Third)
RP:囚人輸送車(Rest Prisoner)
Tのみ:①が"L"の場合、オーディナリークラス(Third)、それ以外は貸切専用車両(Tourist)。
なし:全室荷物車
⑤
S:小型車(貨車規格の新造車両、Short)
X:全長17m以上の車両(eXtra long)
T:小型車の内、全長が長い車両(事業用車のみ)
⑥
E:車軸発電機付(Equipped With Dynamo)
⑦
Z:貫通路あり、改造によって貫通路を埋めた車両は斜線が追加される。(Fitted
with Vestibules)
上の画像の車両を例にとると、BDTEZ12228は「ボギー台車のオーディナリークラス車で、車軸発電機と貫通路を有する車両」という事になる。
その車両が該当しない仕様の個所の記号は省略される。
また、改造によって仕様が変化したにもかかわらず、形式が変更されていない事例も見られる。
①~⑦に付け加えて、括弧書きの記号や小フォント字が追加されることもある。
LED:室内照明をLEDに取り換えた車両を指す。標準的な仕様となったため、2019年頃より再塗装時等に削除されている。
(AC):冷房車
(J):製造から30~40年以上が経過した古参車両を指す。
(RC):気動車を客車化したLBTX900が該当する。(Rail Car)
・二軸車(Four Wheeler)
ARF:救援車・作業員の控車(Accident Rerief for Formen)
IS:インスペクションカー(Inspection Subordinate)